創業明治三十九年 仁生堂薬局 東京千住
2015-11-29

第10回 小石川植物園

この「東京薬草散歩」もついに10回めとなり、2ケタの大台へ!
ひとえにお読み戴いている皆様のおかげでございます。あらためて御礼申し上げます。

さて、秋から冬の植物園めぐり、今回は小石川植物園として親しまれている、東京大学大学院理学系研究科附属植物園を訪ねてまいりました。
古今東西、歴史ある植物園は薬草園が発祥であることが多いようです。わが国では幕府や藩が、また西洋では修道院等が薬草園を設けていて、当時の医療施設だったのですね。
日本最古の植物園である小石川植物園もまたかつての薬草園であり、1684年、徳川幕府が設けた「小石川御薬園」がそのルーツ。
今月は小石川植物園の薬用植物たちにスポットを当ててみます。

この植物園、入口では切符を売っておらず、向かいのタバコ屋さんというか駄菓子屋さん(?)で買うのがユニークだったのですが…
おや、入口に券売機があるではありませんか。
受付の方にきいてみましたら、昨年の4月に券売機を設置したとのこと。
戸惑わなくてよくなりましたが、なにやら一抹の寂しさも(笑

ナンテンが赤くなると冬もすぐそこ。

正門からのゆるやかな上り坂を辿ると、ナンテン(メギ科)の赤い実がたくさん。
建物の佇まいも魅力的ですね^^
さらに寒さが本格化すると、葉も紅葉するでしょう。ナンテンは常緑樹。葉っぱは紅葉後も落ちないで、来春には緑色に戻ります。
果実をナンテンジツ(南天実)といい薬用とします。鎮静作用があり、咳止めなどに利用されます。
また、葉の抽出成分を出発物質として合成されたトラニラスト(リザベン)が、アレルギーや火傷の瘢痕の新薬として使われています。
ナンテンには、果実が白く熟すシロナンテン(シロミナンテン)があり、これは赤い色素の生合成能力を欠くため紅葉もしません。
生薬としては白実が重用されるようですね。なお、色による薬効の差は無いようです。
でもモクキンカ(ムクゲの花)にしてもゲンノショウコにしても、薬の世界では白が重宝されるのは興味深いところです。

坂を上りきり、柴田記念館を見学後、林を散策します。ふつうの林と違うのは、珍しい樹でできているところ。

カンレンボク(キジュ)

カンレンボク(旱蓮木 別名キジュ【喜樹】 ヌマミズキ科)の巨樹が現れました。
いや~こんなに巨きくなるんですね!小平の薬用植物園のカンレンボクもそれなりの大きさですが、ここのは背が高い!20メートルはあります。
この植物の、とくに果実に多く含まれるカンプトテシンは、細胞核で行われるDNAの複製の邪魔をして、細胞分裂できなくしてしまう、まあ細胞毒です。
これを巧く応用したのが抗がん剤であり、カンプトテシンや、それをもとに合成されたイリノテカンが臨床では多く使われるようです。
ところでカンレンボク自身は、自分の作ったカンプトテシンで細胞分裂が止まってしまわないのでしょうか?
どうやら、カンレンボクの持っているDNA複製の酵素(DNAトポイソメラーゼI)は、カンプトテシンの影響を受けないように、アミノ酸配列が他の生物のとちょっと違っているらしいです!

歴史あるサネブトナツメ

林の奥にひっそりと立つ、サネブトナツメ(クロウメモドキ科)。
ここがかつて薬草園であったことを現在に伝える生き証人。
享保12年(1727)から、この場所にいらっしゃるようです。
タイソウ(大棗)として用いられるナツメとは変種の関係。サネブトナツメは果実が小さいです。果肉が薄くて相対的に核が大きいので「サネブト」は「実太」でしょうね。
種子を薬用とし、生薬名はサンソウニン(酸棗仁)。核を割って中の種子を取り出します。精神を鎮める作用があり、酸棗仁湯、加味帰脾湯(かみきひとう)などに配剤されています。
この樹は、大正期と昭和期、2度の暴風・台風に遭っており、現在の樹形になったそうです。ウロには他樹の苗が育ち、昔日の生育の勢いはなさそうですが、まだまだ生きて植物園の未来を見つめてほしいものです。

サネブトナツメやゴシュユなどの薬樹は園内各所に植えられ、いっぽう薬園保存園には、草本や低木などの比較的コンパクトな薬用植物が集められています。

オフィキナリスたち

さて、薬草園を巡ると、学名にofficinalis (officinale)という種小名が含まれる植物がとても多いことに気づきます。
そうです、officinalisは「薬用の」という意味です!
そもそもラテン語のofficinalisは「店」「仕事場」的な意味で、英語のoffice(事務所)とも語源的に共通する言葉と思われます。
こういった植物が薬草店で扱われた、というところから「薬用」の意味合いが派生したのでしょう。
生薬学で避けて通れない「学名」、よくわからない横文字…と敬遠されがちかも? でも知っている英単語との関連をさぐってみると、意外に面白いですよ!

いよいよ師走、植物たちも冬の装いへ。
今後とも宜しくお願いします!

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